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演劇におけるサブプロットとは?

舞台・演劇の分野におけるサブプロット(さぶぷろっと、Subplot、Intrigue secondaire)は、舞台・演劇において主軸の物語(メインプロット)とは別に並行して展開される補助的な物語構造を指します。この副筋(ふくすじ)は、主筋に対して対照的、あるいは補完的な関係を持ち、観客に物語の奥行きや登場人物の多面性、主題の拡張的解釈を提供する演劇的手法の一つです。

サブプロットは、主に舞台劇や戯曲、ドラマにおいて用いられる構造要素であり、主筋とは異なる登場人物が中心となる場合も多く見られます。登場人物の人間関係や内面の変化をより深く描くため、あるいは観客の興味を分散させることなく引きつけるための「変奏」としての役割も担います。

英語では 'Subplot'、フランス語では 'Intrigue secondaire' と表現され、文学作品や映画、オペラにおいても同様に使用される概念ですが、特に演劇においては構造的な多層性を生むための演出技法として重視されています。

サブプロットは、単なる補足的な物語にとどまらず、主題を補強したり、ドラマのテンポやリズムを整える要素として機能するほか、時には劇的な対比や皮肉として、観客に深い思索や感情の波をもたらす存在となることもあります。



サブプロットの起源と古典演劇における役割

サブプロットの概念は、古代ギリシャ演劇やエリザベス朝演劇にさかのぼります。特にシェイクスピアの戯曲には、明確な主筋と並行して展開されるサブプロットが頻繁に登場し、物語全体の立体的構造を形成するのに貢献しています。

たとえば『リア王』においては、リア王と三人の娘の王権を巡る争いが主筋であるのに対し、グロスター伯とその息子たちの確執がサブプロットとして描かれます。この二つの筋は互いに主題的な共鳴を持ち、親子関係や裏切りという共通のテーマを異なる視点から深掘りしています。

また、喜劇においてもサブプロットは重要な役割を果たします。『十二夜』では、オーシーノ公とヴァイオラの主筋に対し、マルヴォーリオを中心とした道化的なサブプロットが繰り広げられ、ドラマ全体にユーモアと構造的対比をもたらします。

古典演劇においては、サブプロットは単なる補足的な筋ではなく、主筋と並行して主題を深化させる鏡のような構造を持ち、劇全体のバランスと多様性を支える中核的要素として機能していました。



現代演劇におけるサブプロットの多様な活用

現代演劇では、リアリズム演劇からポストドラマ演劇に至るまで、サブプロットの役割はますます戦略的な意味を持つようになりました。以下のような活用法が挙げられます。

  • キャラクターの補完:主役以外の人物の視点を通して、主役の性格や行動の動機を浮き彫りにする。
  • テーマの対照化:主筋と異なる視点から同じテーマにアプローチし、価値観や倫理観の多様性を示す。
  • 感情の緩衝:悲劇的な主筋に対して、喜劇的サブプロットを配置し、感情の変化にリズムを与える。
  • 伏線とドラマティックアイロニー:観客が先に知る情報をサブプロットで提示することで、主筋におけるドラマの緊張を高める。

たとえば、現代演劇作品『長い旅路の夜』においては、家族の病と葛藤を描く主筋の陰で、兄弟間の小さな諍いや希望的な関係がサブプロットとして描かれ、絶望の中にも人間的な救いが存在するという構造が生み出されています。

また、複数の視点やストーリーラインが交錯する演劇(群像劇やモザイク演出)においては、複数のサブプロットが同時に展開されることで、観客にとっての理解と解釈の幅を広げる効果もあります。



サブプロットを効果的に扱うための演出的視点

演出家や脚本家にとって、サブプロットは構造とリズムを設計するための重要な設計要素です。以下のポイントは、サブプロットを効果的に活用するための視点となります。

  • 主筋との関連性:サブプロットは独立しすぎず、主筋と何らかの共鳴や対比を持つことが望ましい。
  • 配分とタイミング:主筋が停滞する瞬間や、場面転換の間にサブプロットを配置することで、緊張と緩和のバランスが取れる。
  • キャラクターの配置:脇役が主軸に絡むことで、物語の層が深まり、キャラクターの輪郭が立体的になる。
  • 主題の深化:異なる価値観や結末を持つサブプロットによって、主題の多義性を示すことができる。

たとえば、主筋が「権力闘争」であるならば、サブプロットでは「個人の倫理的葛藤」や「愛と裏切り」を描くことで、観客に異なるレイヤーから物語を体験させることが可能です。

サブプロットは、観客が物語の「裏側」や「異なる視角」に気づくための窓であり、その配置と構造によって、舞台全体の完成度を左右するといっても過言ではありません。



まとめ

サブプロットとは、舞台・演劇において主たる物語とは別に展開される副次的な筋書きであり、登場人物の補完、主題の深化、物語の対比構造など、多層的な演出を可能にする重要な概念です。

古典から現代に至るまで、サブプロットは観客の理解と感情をより豊かにする演劇構造の核として進化しており、今後も演劇作品において不可欠な要素としてその価値を高め続けることでしょう。

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